子どもが『聞く耳』を持つようになる 目線と準備で集中を引き出す声かけ術
お子様とのコミュニケーションにおいて、「なかなか話を聞いてくれない」「何度言っても届かない」といったお悩みをお持ちの親御様は少なくないでしょう。特に、自己主張が強まる時期のお子様は、自分の興味があること以外には集中しにくいものです。しかし、少しの工夫と意識で、お子様が自ら話に耳を傾けてくれるような「聞く耳」を育むことができます。
このコラムでは、お子様の集中を引き出し、心に響く声かけをするための基本的なステップとして、「目線合わせ」と「声かけ前の準備」に焦点を当ててご紹介します。具体的な実践例を交えながら、明日からすぐに試せる方法をお伝えしますので、ぜひ日々のコミュニケーションに取り入れてみてください。
なぜ子どもは話を聞いてくれないのか
お子様が親の話を聞かないのは、決してわざとではないことがほとんどです。その背景には、お子様の発達段階における特性や、親の声かけのタイミングなどが関係しています。
- 集中力の持続が難しい: 幼いお子様は、大人のように長時間一つのことに集中するのが難しいものです。特に、遊びに夢中になっている時や、他の刺激が多い環境では、親の話に意識を向けることが一層困難になります。
- 「聞く準備」ができていない: 突然話しかけられたり、すでに何かに没頭している時に中断を求められたりすると、お子様は気持ちの切り替えが難しくなります。話を聞く心の準備ができていない状態でいくら話しても、言葉は心に届きにくいものです。
- 言葉の意味を理解しきれていない: まだ語彙が少なく、抽象的な表現が難しいお子様にとって、大人の長い説明や回りくどい言い回しは理解しにくいことがあります。
これらの背景を理解することで、お子様が話を聞いてくれない理由が見えてくるでしょう。大切なのは、お子様の特性を考慮した上で、親側がコミュニケーションの方法を工夫することです。
コミュニケーションの第一歩「目線合わせ」の重要性
お子様に話しかける際、親が立って上から声をかける状況はよくあります。しかし、この姿勢では、お子様は親の表情や口元をしっかりと見ることができず、言葉だけでなく、親の伝えたい気持ちを受け取りにくくなります。
そこで大切になるのが、「目線合わせ」です。お子様の視線に合わせてしゃがむことで、物理的な距離が縮まるだけでなく、心理的な距離も近づき、お子様は親の言葉に集中しやすくなります。
実践方法
- しゃがんで顔を見る: お子様に話しかける際は、まずお子様の目の高さまでしゃがみ込みましょう。お子様の顔をしっかりと見つめ、アイコンタクトを取ります。
- 声かけ例: 「〇〇ちゃん、ママがお話したいことがあるんだけど、ちょっとママのお顔を見てくれるかな。」
- 触れて意識を向ける: 必要に応じて、お子様の肩にそっと手を置くなど、優しく体に触れることで、お子様の意識を親へと向けさせることができます。
- 声かけ例: 「〇〇ちゃん、今、〇〇ちゃんに大切なことを伝えたいんだよ。」(同時に肩に手を置く)
- 名前を呼び、区切りをつける: まずお子様の名前を呼び、返事があるのを待ってから話し始めます。これは、これから話が始まることを知らせる大切な合図になります。
- 声かけ例: 「〇〇ちゃん。」(お子様がこちらを見たのを確認してから)「あのね、今日のおやつは…」
目線を合わせることで、お子様は「自分に語りかけている」と認識しやすくなり、親の言葉に真剣に耳を傾ける準備が整いやすくなります。
「聞く耳」を育てるための声かけ前の「準備」
目線合わせができたとしても、お子様が他のことに夢中になっている場合は、すぐに話を聞いてくれるとは限りません。ここで重要になるのが、声かけの「前段階」に準備を挟むことです。お子様に「今から話を聞く時間だよ」と意識を向けるためのステップを設けましょう。
実践方法
- 活動の中断を促す予告をする: お子様が何かに夢中になっている時に、いきなり「〇〇しなさい」と指示を出すのではなく、まずは活動の中断を優しく促します。
- 声かけ例:
- 「〇〇、今、とっても楽しそうだね。ごめんね、もう少しだけママのお話を聞いてもらえるかな。」
- 「あと3回ボールを投げたら、ママのお話を聞いてくれるかな。」
- 「この絵本のページが終わったら、お話できるかな。」
- 声かけ例:
- 具体的な時間や目処を伝える: お子様がいつまでに、どのくらいの話を聞けば良いのかを具体的に伝えることで、見通しが立ち、安心して耳を傾けやすくなります。
- 声かけ例:
- 「〇〇、時計の長い針が『6』のところに来たら、ご飯の時間だから、その前にお片付けを始めるお話を聞いてくれるかな。」
- 「今から5分だけ、お出かけの準備についてお話するね。」
- 声かけ例:
- 親自身の心の準備: お子様がすぐに反応しなくても、焦らず、穏やかな気持ちで待つことが大切です。親が感情的になると、お子様も話を聞くことが難しくなります。深呼吸をして、落ち着いて声かけをする準備をしましょう。
これらの準備を挟むことで、お子様は遊びから意識を切り替え、親の話に集中するための心の準備をすることができます。これは、お子様が自ら「聞く耳」を育む上で非常に効果的なアプローチです。
短く、具体的に、肯定的に伝えるコツ
目線を合わせ、準備が整ったところで、いよいよ本題の声かけです。ここでは、お子様が理解しやすく、行動に移しやすい声かけのコツをご紹介します。
実践方法
- 短く、シンプルに伝える: 長い説明は、お子様の集中力を途切れさせてしまいます。伝えたいことは、できるだけ短く、簡潔な言葉を選びましょう。
- NG例: 「おもちゃを出しっぱなしにしていると、お部屋が散らかって危ないし、次に遊ぶ時に見つからなくなるから、ちゃんとお片付けしなさい。」
- OK例: 「〇〇ちゃん、おもちゃを箱に戻してくれるかな。」
- 具体的な行動を伝える: 抽象的な指示ではなく、お子様が具体的に何をすれば良いのかがわかる言葉を選びます。
- NG例: 「ちゃんとしなさい。」
- OK例: 「お洋服を畳んで、引き出しに入れてくれるかな。」
- 肯定的な言葉で伝える: 「〜しちゃダメ」という禁止の言葉ではなく、「〜しようね」と促す肯定的な言葉を使います。
- NG例: 「走り回っちゃダメ。」
- OK例: 「ここでは歩こうね。」
- 声かけ例: 「おもちゃで遊ぶのは楽しいね。でも、そろそろお片付けの時間にしようか。」
まとめ
お子様が自ら話を聞いてくれるようになるためには、親が一方的に話すのではなく、お子様が「聞く準備」を整えられるようなコミュニケーションを心がけることが大切です。今日ご紹介した「目線合わせ」と「声かけ前の準備」は、お子様の集中を引き出し、心に響く言葉を届けるための基本的ながらも非常に効果的なステップです。
これらの方法を日々の生活に取り入れることで、お子様は親の話に耳を傾ける習慣を身につけ、親御様は感情的にならずに穏やかに接することができるようになるでしょう。焦らず、小さな変化の積み重ねを大切にしながら、お子様とのより良いコミュニケーションを育んでいきましょう。